相続のホームドクター30選

相続手続の流れ④ 「相続放棄・限定承認(責任を被相続人の財産の範囲内で)」


相談者


相続人の内で相続放棄した人がいた場合、相続税にどんな影響があるのでしょうか?


相続税のホームドクター


影響がある主たるケースは、生命保険と死亡退職金の扱いです。
相続人が取得した生命保険金や死亡退職金の一定額は、非課税とされるが相続を放棄した者が取得した場合には非課税の扱いは全くない、とされています。
その他、相続放棄した者に対する定めがあるが、稀なケースなので説明は省略しますが、いずれも不利な取り扱いとなっています。

相続財産からの基礎控除や相続税の総額計算では、相続放棄がなかったものとして扱うので変わりはないのです。
相続放棄の中で、もうひとつ「限定承認」というのがある、これはどういう制度かと言うと 熟慮期間内に調査したところ、どうやら債務超過の状態ではなさそうだが、確信が持てない場合もある。

また、他の相続人、その他の親族の関係で、相続放棄をすると、第二順位、第三順位と相続人が繰り下がるので、これは不都合と考える相続人もあり、また、相続放棄をすると最初から相続人でない、とみなされ「相続」に関与できなくなると考える人もいるだろう。

こんな場合に「限定承認」が行なわれると考えられる。こういった事情で「限定承認」という「相続承認」をする場合もある。
限定承認は相続債務や、遺贈の義務を遺産中の積極財産の限度で責任を負うというもの。
言いかえれば相続人に、被相続人の債務や遺贈の責任を被相続人の財産の範囲内で弁済させ、もし残余があれば相続人に取得させる、という制度です。

これだけで考えると一見、都合の良い制度だと考えられる向きもありますが、借金を払って残ったら貰うが、足りない分は払わないよ、と良い所取りが出来るのですが、平成十三年度の統計では「限定承認」件数は、九百五件「相続破棄」の申述が十一万件弱と比べると非常に少ない。

この理由は不明であるが、資産・負債のバランスが不明な相続が少ない。共同相続人の協力が得られない、といった事情があると思われます。
「限定承認」の申述には相続人全員が共同してのみこれをすることができる、とされているからです。
とは言っても「相続放棄」は単独でもできるので、一部の者が相続放棄して、残りの相続人が共同して限定承認することも可とされています。

生死不明の者に「不在者管理人」を選任し、家庭裁判所の許可を得て他の共同相続人と共に限定承認をすることができる、とされています。

この限定承認は、会社の清算と同様な考え方をするので、被相続人の遺産に付、申述人、主として相続人が戸籍謄本、財産目録を申述書に添付して家裁に提出、家裁は内容を審議すると共に申述者の真意の確認を照会書で行なうこととなります。

申述書が受理されると、家裁は共同相続人の中から相続財産の管理人を選任し、清算手続きが始まることになり、清算手続きが始まると、相続開始の日に、被相続人から相続人に相続財産を時価で譲渡したものとして、譲渡所得税が課税されるものが出てきます。
土地・家屋を初めとして、事業用固定資産、ゴルフ会員権、株式・出資・三十万円超の貴石・貴金属・書面骨董などです。

この結果、譲渡価額が取得費を上回り、譲渡所得税は、被相続人が納付すべき税として、準確定申告、即ち相続の開始を知った日の翌日から四カ月以内に、その年の一月一日から死亡の日迄の所得に対する税と共に納付することとされています。

この譲渡所得税は、被相続人の負債とされ、債務控除の対象となるが相続財産の時価評価と負債の清算、譲渡所得税の課税というこの点が普通、即ち単純承認にする相続と異なる大きなデメリットがある。
限定承認は、この様な税負担もあることを考え、慎重に取り組んで頂きたい。


※平成30年4月1日現在の法令に基づいて作成しております。