相続のホームドクター30選

遺言の話②「ボケる前、字が書ける内に」


相談者


遺言するのも「ボケ」たり字が書けなく前にしなくてはならないと思いますが、
遺言が有効に作成する場合の要点はどの様なことでしょうか?


相続税のホームドクター


遺言には三つの原則的な方式があり、一番確実なのは公正証書で作った遺言。
それで、公正証書で遺言をするときは、遺言者が公証人の前で、口頭で遺言の趣旨を述べることが必要不可欠。
聾唖者は、しゃべれないので手話通訳や筆談で述べることができる、脳血栓などで半要不可欠。身不随となり字が書けなくなった上、言語障害が出たが、意識はハッキリしていて、目は良く見えるし、耳も良く聞こえても言葉が出ない、という高齢者の場合、公正証書遺言はムリ、と言われた場合でも、高齢者の健康状態、特に老人性痴呆症の場合でも、遺言作成時に意思能力が一時的に回復した状態であれば有効という考えがあり、判例もいくつかあります。

意思能力がある、という専門医の証明があれば有効性が高まることは言うまでもない。
意思能力があるとしても公正証書遺言は民法においては厳格な手順を要求している。

即ち、以前にも話をした通り「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること」とあり、口がきけないものについては「通訳人の通訳により申述し、又は自署して…口授に代えなければならない」と定められています。

この様に、字が書けない、口がきけない状態での遺言は、手話で通訳を介して口授に代えることとなりますが、この様な高齢者が手話を使えることは稀なことだ。とすれば意思能力があっても伝達能力を欠き、遺言出来ない状態となる。

例えば、事前に遺言者の遺言の趣旨なるものを箇条書きにしたものを、公証人が、証人と遺言者に読み聞かせ「この通りで良いか」と質問し、これに対し、遺言者が頷くなどの態度を示したことだけでは、その意思を確認したとは言えず、遺言の内容が全面的に遺言者の真意である、と判断できない、と差戻された判例もあります。

この様な場合に、遺言書の様な厳格な手続きの要求はされない「死因贈与契約」を考えるのも一つの解決法ではないかと考えられます。

「死因贈与」とは言葉通り、贈与者の死亡によって贈与が成立し、遺言による遺贈と同じ効果を生ずるものです。
「贈与」といっても贈与税の対象とならず、相続税の課税と同じ扱いとされることになっていて、又贈与の対象物が不動産であれば「贈与予約の仮登記」を行うことが出来ます。

当相続支援センターでも今までに二件あって、その内一件は、口もきけず、字も書けないので、遺言で遺贈すべき財産を相続時精算課税制度で生前贈与をして解決したのだが、一千万円近い贈与税も、相続時に精算される、ということで納得して納めて頂いたケースがありました。
高齢者の健康状態は急変することがあるので、まだまだ僕は元気だから、と先延しすると、とり返しのつかないことになります。

さて、最近の実例を取り上げ、あなたならどうする、と考えて頂きたい。
夫に先立たれて十五年、長男と同居中だがこの息子、言動が粗暴で、金遣いが荒い性格。妻も派手好きで子供はない。
次男は気が優しく近くに住んでおり、家庭円満、老母を気遣い女房共々、何時も声をかけてくれるので、夫の残してくれた財産の大部分を弟息子に相続させたい、と考えて密かに公正証書遺言をしていた。

ところが、買い物の途中転倒し、骨折、寝たきりの生活となったところ、長男がこの遺言書を知ることとなり、僕達夫婦が介護の面倒を見るのだから、って遺言の書き替えを迫られ、介護を受ける立場の弱みで長男の主張通りに書き替えた、というケース。
こんなケースは、稀なことではなく日常的な風景と言って良い。

介護者に迎合し、介護者の意に添う遺言をする。介護者が代われば遺言も代わる、ということで遺言者の真意とは何か、と考えさせられる事件である。


※平成30年4月1日現在の法令に基づいて作成しております。